第1回 コーヒー豆の品種(補足資料)

コーヒー豆は、大きく分けると3つに分類されます。

== アラビカ種 ===

アラビカ種はエチオピア原産で、最初に広まったイエメンにちなみアラビカの名がある。200以上の品種があり、さらに交配による新品種の育種も行われている。

高品質で収量も比較的高く、世界のコーヒー生産において7~8割を占め主流となっている。主な栽培地は中南米とアフリカの一部で、高級品として取引される産地が多い。ただし高温多湿の環境には適応せず、霜害に弱く、乾燥にも弱い。レギュラーコーヒー用。

=== ロブスタ種 ===

ロブスタ種はコンゴ原産のカネフォーラ種の変種で、1895年に発見され、強靭を意味するRobustから命名された。当時流行していたサビ病に強い性質を受けてジャワ島で栽培され、広まった。品種はあるが特に区別されない。

病虫害に強く、高温多湿の気候にも適応するうえ成長が速く高収量で、生産量の2~3割を占める。主な栽培地は東南アジアとアフリカの一部で、特に生産量2位のベトナムで栽培が伸びている。主にインスタントコーヒー用、あるいは廉価なレギュラーコーヒーの増量用として用いられる。

カフェインや[[クロロゲン酸]]類の含量が高く、焦げた麦のような香味で苦みと渋みが強く、酸味がない。

植民地と宗主国の関係からヨーロッパ、特にフランスでの消費が多い。フレンチロースト、イタリアンローストなど深煎りしてミルクを合わせる飲み方が普及した背景と見られる。

=== リベリカ種 ===

リベリカ種は西アフリカ原産で、ロブスタ種と同様に個々の栽培種が区別されることは少ない。1876年にリベリアヨーロッパ人によって「発見」されたが、当時からアフリカ西岸各地で栽培されていた。かつてはアラビカ種、ロブスタ種とあわせてコーヒーの三原種と呼ばれていたが、現在では全生産量の1%未満にすぎない。

高温多湿の気候に適応するがサビ病に弱く、品質もアラビカ種に及ばないとされる。西アフリカの一部で栽培、国内消費されている。

=== 栽培品種 ===

栽培地ごとに移入された年代や経路が異なることと、栽培の過程で変異種の発見と品種改良が行われた結果として、栽培のための品種が数多く存在している。品種改良は特にアラビカ種で進んでおり、ブラジルとコロンビアで盛んに行われている。アラビカ種が世界シェアの70%を占め、ロブスタ種はアジアで多く栽培されている。

従来は”’ティピカ”’と”’ブルボン”’がアラビカ種の二大品種と呼ばれ、それぞれコロンビアとブラジルで主力品種であった。しかし、この二品種は収量があまり多くなく病害虫にも弱いため、品種改良によってより収量が多く病虫害に強い品種の栽培が盛んになり、コロンビアではカトゥーラとバリエダ・コロンビアが、ブラジルではカトゥーラ、カトゥアイ、ムンド・ノーボなどが主力となった。

ところが、より風味の優れるコーヒーを求める消費者の要求により、近年では低収量でも風味に優れるティピカ、ブルボンの栽培が盛り返してきている。特にコロンビアではロブスタ種との交配種であるバリエダ・コロンビアを主な栽培品種にした結果、産地としてのコロンビアの評価が大きく低下してしまったため、ティピカへの切り替えが進められている。中南米地区の国でも高級品として、これらの品種の栽培が増えてきている。

==== アラビカ在来種・移入種 ====

ティピカ 

中南米に移入されたアラビカ種を起源とするもの。豆はやや細長い。香りが強く上品な酸味と甘味を持つと言われる。ただ、収量は低く隔年変化するため安定せず、病虫害にも弱い。コロンビアの主力品種であり近年はカトゥーラなどの収量の多い品種に圧されて作付が減少してきていたが、最近になり主に高級品向けとして栽培が増えてきている。

スマトラ 

インドネシアに移入されたアラビカ種を起源とする品種。大粒で長円形。マンデリンがその代表。

モカ

イエメンやエチオピアで栽培されている。一種類の確立した品種ではなく、複数の在来種の混合品の総称であり、特に決まった品種名がないため、通称として「モカ種」といわれる。マタリやハラー、シダモなどは栽培している地区の名称であって植物の品種名ではないが、コーヒー豆の種別(銘柄)としては通用している。栽培地区の違いで微妙に在来種の構成が異なるため栽培地区の違いにより味も微妙に異なる。

ブルー・マウンテン

ジャマイカに移入され栽培された品種。現在はジャマイカのほか、ケニアなどにも移入されている。ここでいう「ブルー・マウンテン」はあくまで植物の品種名としてのものである。コーヒー豆の銘柄とは意味合いが異なり、ブルーマウンテン(品種)の豆であってもケニアで生産されたものをブルーマウンテンとすることはない。

コナ

ハワイに移入された品種。ハワイでのコーヒー生産が減少しているため高値で取引されている。

コムン

ブラジルに最初に移入された品種。

ティコ 

中央アメリカに移入された品種。

==== アラビカの変異種・改良種 ====

ブルボン 

イエメンからレユニオン・ブルボン島に移入され突然変異したもの。ティピカの突然変異種とする文献も多くあるが、コーヒーが中米に伝わったのより早くブルボン島に移入されているため、つじつまが合わない。ブラジルに移入され発見された。ティピカと比べ収量は多いが、より新しい品種との比較では劣り、また収量が隔年変化し安定せず、霜害や病虫害にも弱い。品質は良好で、甘味や濃厚なコクと丸みが特長。生豆は小さめで、センターカットがS字のカーブを描く。かつてのブラジルにおける主力品種。ブルボン・サントがその代表。

レユニオンでは、変異種の”’ブルボン・ポワントゥ”’が栽培されていたが、1940年代に一時栽培が途絶し、2007年にUCC上島珈琲によりごく少量ではあるが栽培が復活した。ポワントゥは、ブルボンよりも豆が細くかつ密度が大きく、カフェインの量が通常のコーヒーの約半分で甘みが強く、花のような独特の香気が特長。また、葉もゲッケイジュのように細長く、樹形もとがっている。その後、ポワントゥはブラジルなどでわずかに栽培されている”’ラウリーナ”’と同一であることが判明した。高品質であるものの、病虫害に弱く生産性も低い(通常のアラビカの約30%)ため、希少価値が高い。

カトゥーラ 

「カツーラ」と表されることも多い。ブラジルで見つかったブルボンの変異体。病虫害に強く、低温にも耐える。矮性(樹高が低い)で収穫時の手間が少ない。高品質で特に強い良質な酸味を持つが、やや渋味も強い。コロンビアなどの主力品種の一つ。発見されたブラジルでは土地の相性が悪く、収量の隔年変化のためにほとんど栽培されていない。

ムンド・ノーボ 

ブラジルでブルボンとティピカの自然交配から生まれた品種。病虫害に強く、比較的高収量。ブルボンでありながら旧来のティピカに似た、調和の取れた味を持つと言われる。ムンド・ノーボとは「新世界」の意味。ブラジルの主力品種の一つ。

カトゥアイ 

「カツアイ」と表されることも多い。ムンド・ノーボとカトゥーラを交配したもの。矮性(樹高が低い)で病虫害に強く、高収量。味はブルボンに似る。ブラジルの主力品種の一つ。

マラゴジッペ

ブラジル原産のティピカの変異種。種子が極めて大きい。品質はやや低めだが、特徴的な風味を持つ。炭焼コーヒー向きと言われる。

サン・ラモン 

コスタリカで発見されたティピカの変異種。矮小な品種、風味は良いとされるが生産性は高くない。ホンジュラス、パナマ、グァテマラなどで少し栽培されている。

パーピュラセンス

: 「プープルアセンス」とも表されるティピカの変異種。葉が紫色に紅葉する。ベネズエラやホンジュラスでごく少量生産されていて商業ベースでは流通していない。

ケント

インドで発見されたティピカの変異種。病害に強く高収量。

パーカス 

エルサルバドルで発見されたブルボンの変異種。矮性 (樹高が低い) で、種子が大きく、品質も良好。

アカイア 

ブラジルでムンド・ノーボのなかから特に大きい種子をつける樹を選抜して固定化した品種。生豆の平均サイズがスクリーン18と大きく、病害に強い。

パカマラ 

パーカスとマラゴジッペを交配したもの。「パカマラ」という名前の由来は両品種の名前を合成たもの。エルサルバドルにて栽培される。種子が大きく、軽い酸味と甘味を持つと言われる。

ヴィラ・サルチ

コスタリカで発見されたカトゥーラに似た変種。カトゥーラの変異したものか、あるいはカトゥーラとパーカスの自然交配種の変異したものだと言われている。

アルーシャ 

ティピカの変異種。タンザニアにある「アルーシャ地区」で栽培が始まったが、パプアニューギニアに持ち込まれ、現在では同国での栽培が盛んである。

ゲイシャ 

エチオピア原産の野生種。パナマやマラウィにおいて栽培が盛んな品種であり、低収量だが高品質。独特な風味と香気を持つ。パナマ産のものが近年のオークションでブルーマウンテンをも超える高値で取引されたことから他の中南米諸国でも栽培が始められている。

==== アラビカの色素変異種 ====

アマレロ

果実が赤い通常種に対し、黄色の変異種。ポルトガル語表記では品種名の後に「アマレロ」、英語表記では品種名の前に「イエロー」を付記する。変異種に対し通常種を相対的に「レッド」と呼ぶこともある。流通量が多いブルボンアマレロ(イエローブルボンとも表される)のほか、ティピカやカトゥーラ、カトゥアイなどが生産されている。

==== ロブスタ種 ====

全体としての生産量がアラビカより少ないことや、アラビカ種とは異なり[[受粉|自家受粉]]では実をつけないのため、遺伝的背景がばらばらであることから、個々の栽培種が区別されることは少ない。

ロブスタ種に属する品種には以下のようなものがある

ロブスタ

樹形が直立する。

ウガンダ

樹形が横に広がる。

コニロン

新しく発見されたロブスタ種の変異種。

==== 交雑種 ====

アラビカ種の品質の高さを維持したまま、その弱点である収量の低さや病虫害抵抗性の低さを克服させるため、アラビカ種とロブスタ種の交雑種の作製が行われている。ただしアラビカ種とロブスタ種は染色体数が異なり、単純に交配させても結実しないため、ロブスタ種が自然に変異した四倍体、あるいは人工的に四倍体化したものとの間で交配が行われる。

交雑種由来の品種には以下のようなものがある。

ハイブリド・デ・ティモール 

自然に四倍体化したロブスタ種とアラビカ種との交雑種。単にティモール とも呼ぶ。病害に強い。

アラブスタ 

アラビカ種と、人工的に四倍体化したロブスタ種の交配による品種。特性は両者の中間だが、収量が低い。

カティモール

「カチモール」と表されることも多い。ハイブリド・デ・ティモールとカトゥーラを交配したもの。非常に多収穫で病害に強いが、風味の点では他の品種に劣るとされる。

バリエダ・コロンビア 

カティモールにカトゥーラを[[戻し交配]](雑種と親にあたる品種とを交配)し、アラビカ種の性質により近づけたもの。収量が非常に高く、病虫害にも強い。他の交雑種に比べると良質だが、ティピカと比べると品質は低いという人もいる。コロンビアの主力品種の一つ。

サルチモール 

ヴィラ・サルチ とハイブリド・デ・ティモールの交配から作られた変種。

トゥピ 

ハイブリド・デ・ティモールとサルチモールの交配によるもの。

ウバダン

サルチモールとカトゥアイの交配によるもの。

イカトゥ

イカツ」と表されることも多い。コニロンとカトゥーラを交配したものに、ムンド・ノーボとカトゥーラを戻し交配したもの。

Coffee_Cultivars